「近所で工事をしていて、お宅の屋根が浮いているのが見えたので」。そう言って訪ねてくる業者がいます。親から「屋根を直すことにした」と後から聞いて、慌てて調べる家族は少なくありません。この記事では、点検商法と呼ばれる手口の特徴と、契約してしまったときにまず何をすればいいかを整理します。

結論:金額より先に、契約書面の日付を確認する
契約してしまったと聞くと、まず「いくら払ったのか」を聞きたくなります。ただ、最初に確認したいのは金額ではなく、契約書面をいつ受け取ったかです。
訪問販売の契約は、条件を満たせば一定期間内であれば無条件で解除できます。この期間の起算日が、契約書面を受け取った日だからです。書面がどこにあるか分からないうちに日数だけが過ぎていく、というのがいちばん避けたい展開です。
そして、判断は家族だけで抱えないほうが早く進みます。消費者ホットライン「188」に電話すると、最寄りの消費生活センターにつながります。局番なしの3桁です。
契約してしまった、と聞いたときの順番

最初のステップが「責めずに、事実だけ聞く」なのには理由があります。強く責めると、親は次から隠すようになります。次に同じことが起きたときに相談してもらえなくなるほうが、長い目で見て損失が大きいからです。
聞くのは、いつ・誰と・いくらの契約か、書面は受け取っているか、この4点だけで十分です。あとは188に電話して、消費生活センターの助言に沿って動きます。すでに工事が始まっていたり、代金を支払っていたりする場合でも、相談する価値はあります。
親の判断能力そのものに不安が出てきている場合は、成年後見制度のような仕組みも視野に入ります。ただし後見は使い始めると原則として続く制度なので、まずは消費生活センターに現状を伝えるところからです。
なぜ親の世代が狙われるのか
国民生活センターによると、屋根工事に関する点検商法のトラブル相談は増加傾向にあり、2022年度は過去5年で最も多く、2018年度の約3倍にのぼったとされています。訪問販売によるリフォーム工事全体の相談も、2021年度の9,756件から2023年度は11,861件へと増えています。
注目したいのは契約者の年齢です。屋根工事の点検商法では、契約者の80%以上が60歳以上でした。
理由はいくつか重なっています。日中に自宅にいる時間が長いこと、屋根や床下は自分で確認できないこと、そして「今すぐ直さないと雨漏りする」と言われると断りにくいこと。実家が古ければ古いほど、指摘は現実味を帯びて聞こえます。
よくある流れ
無料点検を持ちかけて敷地に入り、屋根や床下の写真を見せて不安をあおり、その場で契約を迫る。この順番が典型的とされています。見せられた写真が本当に実家のものかどうかは、その場では確認できません。
工事内容も、必要以上に広い範囲だったり、相場からかけ離れた金額だったりすることがあります。
クーリング・オフの日数は、取引の種類で違う
クーリング・オフは「どんな買い物でも8日以内なら返せる制度」ではありません。取引の種類によって、期間も、そもそも制度があるかどうかも変わります。
| 取引の種類 | 期間 |
|---|---|
| 訪問販売 | 8日間 |
| 電話勧誘販売 | 8日間 |
| 特定継続的役務提供 | 8日間 |
| 訪問購入 | 8日間 |
| 連鎖販売取引 | 20日間 |
| 業務提供誘引販売取引 | 20日間 |
| 通信販売 | 制度なし |
起算日は、申込書面または契約書面のいずれか早いほうを受け取った日からです。受け取った日を1日目として数えます。
通信販売にクーリング・オフ制度はありませんが、返品についての表示がない場合は、商品を受け取った日から8日以内であれば返品できるとされています。この場合の返送費用は消費者の負担です。
なお、上記の販売方法であっても、条件によってはクーリング・オフができない場合があります。自分たちの契約が該当するかどうかは、消費生活センターで確認するのが確実です。
通知の方法
通知は書面のほか、電磁的記録でもできます。はがき、電子メール、USBメモリなどの記録媒体、事業者がクーリング・オフ専用のフォームを設けている場合はそのフォーム、FAXも認められています。
はがきで出す場合は、両面のコピーを取り、特定記録郵便など発信の記録が残る方法で送るのが一般的です。書き方に迷ったら、188に電話した際に確認してください。
起きる前にできる、3つのこと
1. 「その場で決めない」を家族のルールにしておく
断り方を教えるより、判断を先送りする言葉を1つ決めておくほうが実用的です。「息子(娘)に聞いてから決める」と言えば、たいていの勧誘はその場では成立しません。親が悪者にならずに済む言い方でもあります。
2. 実家の状態を、家族側でも把握しておく
屋根や外壁の状態を家族が何も知らないと、業者の指摘を否定する材料がありません。誰も住んでいない実家であれば空き家の管理の一環として、住んでいる場合でも帰省のたびに外観を写真に撮っておくと、比較の基準になります。
本当に手すりや段差の工事が必要な場合は、介護保険の住宅改修が使えることもあります。工事の必要性を第三者に見てもらう入口としても機能します。
3. お金の動きに気づける状態をつくっておく
高額な契約は、預金の動きに現れます。親の口座を家族が勝手に見ることはできませんが、認知症になったときに預金が止まる仕組みを親と共有しておくと、お金の話をするきっかけになります。
日常的な様子の変化に気づく手段としては、見守りサービスを使う方法もあります。
わが家の場合
母から「給湯器の点検に来る人がいる」と電話がありました。業者名を聞いても「チラシに書いてあった気がする」という返事で、結局その紙は見つかりませんでした。
そのとき決めたのが、「誰か来たら、その場では決めずに私に電話する」という一行のルールです。母は断るのが苦手な人なので、断り方を覚えてもらうより、いったん保留にする理由を持ってもらうほうが現実的でした。
冷蔵庫に私の携帯番号を貼ってあります。実際にかかってきたことはまだありませんが、貼ってあること自体が母の言い訳になればいいと思っています。
今日やることは、これだけ
- 「その場では決めずに、私に電話して」と親に伝える
- 帰省したときに、実家の外観を1枚写真に撮っておく
- 消費者ホットライン「188」を親のスマホに登録しておく
出典
- 国民生活センター「屋根工事の点検商法のトラブルが増えています」
- 国民生活センター「訪問販売によるリフォーム工事・点検商法」
- 国民生活センター「クーリング・オフ」
- 消費者庁「消費者ホットライン」
