父を見送ったとき、いちばん最初に立ち往生したのはスマホのパスコードでした。葬儀や役所の手続きには決まった段取りがあるのに、スマホの中身だけは、どこから手をつければいいのか分からない。この記事では、「デジタル遺品」とは何か、放置すると何が起きるのか、そして今日からできる備えを整理します。

デジタル遺品とは?3つに分けると整理しやすい
デジタル遺品とは、亡くなった人のスマホやパソコン、インターネット上に残されたデータや契約のことです。ひとくちに「デジタル」と言っても中身はさまざまで、次の3つに分けて考えると全体像がつかみやすくなります。
| 種類 | 中身の例 | 放置すると |
|---|---|---|
| 思い出のデータ | 写真・動画・連絡先・メッセージ | 取り出せなくなる |
| お金に関わるもの | ネット銀行・ネット証券・キャッシュレス残高 | 相続の手続きから漏れる |
| 契約・アカウント | サブスク・SNS・メール・通販サイト | 支払いやアカウントが残り続ける |
「思い出のデータ」は形見としての意味を持つもの。「お金に関わるもの」は立派な相続財産です。そして「契約・アカウント」は、亡くなった後も自動的には消えず、解約や削除の手続きが必要になるものです。
この3つは、放置したときに起きる困りごとも、備え方もそれぞれ違います。順に見ていきます。
放置すると何が起きるか
ネット口座が相続の手続きから漏れる
いちばん影響が大きいのがお金まわりです。ネット銀行やネット証券は紙の通帳がなく、郵送物も最小限のため、家族がその存在に気づきにくいという特徴があります。
口座が後から見つかると、終わったはずの遺産分割の話し合いをやり直すことになったり、相続税の申告に漏れが生じたりする可能性が指摘されています。相続財産の具体的な扱いはケースによって異なるので、心当たりがある場合は税理士や弁護士などの専門家に相談するのが確実です。
使っていないサブスクの支払いが続く
国民生活センターには、「亡くなった夫の携帯電話を解約したのに、スマホのセキュリティサービスの契約が残っていた。IDとパスワードが分からず、すぐに解約できない」といった相談が寄せられています。
サブスクの多くは、利用していなくても解約するまで支払いが続きます。契約の存在自体を家族が知らなければ、気づかないまま引き落としが続くこともあります。実際に解約が必要になったときの手順は故人のサブスク・ネット契約、解約はどう進める?にまとめています。
思い出のデータが取り出せなくなる
写真も連絡先も全部スマホの中、という方は多いはずです。パスコードが分からなければ、中のデータを取り出すのは簡単ではありません。訃報を知らせたい相手の連絡先が分からない、という実務的な困りごとにも直結します。
わが家の場合
父のスマホは、結局最後までロックを解除できませんでした。何十年分の連絡先も、旅行の写真も、スマホの中に残ったままです。
一方で、父が使っていたネット証券の口座は、たまたま郵送で届いた通知がきっかけで存在が分かりました。もしあの通知が来なかったら、と考えると今でも少し怖くなります。パスコードひとつ、口座の一覧ひとつ聞いておくだけで、あの数か月の手間と不安はずいぶん減っていたはずです。
今日からできる備え・3つ
備えといっても、いきなり全部をやる必要はありません。国民生活センターも、パスワードを家族が確認できるようにしておくことや、契約の一覧化を勧めています。まずはこの3つからで十分です。
- スマホのパスコードの「残し方」を親子で決める。口頭で聞かなくても、封筒に書いて実印と一緒にしまう、エンディングノートに書くなど、方法はいくつもあります。iPhone・Android別の「もしも」に備える設定は親のスマホ、亡くなった後にロック解除できる?で詳しく解説しています
- お金まわりの「ありか一覧」を作ってもらう。IDやパスワードまでは不要です。「どの銀行・どの証券会社に口座があるか」が分かるだけで、いざというときの手続きは大きく変わります
- 毎月払っているサブスクを書き出す。クレジットカードの明細を親子で一度眺めるだけでも、把握はぐっと進みます

大切なのは、深刻な話にしないことです。「もしものとき」と構えるより、「最近こういう話をよく聞くから、うちも一覧だけ作っておこうよ」くらいの温度で始めるのが、結局いちばん続きます。
次の帰省のとき、まずはパスコードの話だけでもしてみませんか。
今日やることは、これだけ
- 次に親と話すとき、スマホのパスコードの残し方を聞いてみる
- 銀行・証券の「ありか一覧」を作ってもらうようお願いする
- クレジットカードの明細で、毎月のサブスクを一緒に確認する
