親の入院は、たいてい突然決まります。病院から渡される書類の束、身元保証人の欄、いくらかかるか分からない入院費。この記事では、慌てないために知っておきたいお金と手続きの基礎を、入院が決まった場面に沿って整理します。

結論:現金をかき集める必要はない。医療費には「上限」がある
入院と聞くと、まずお金の心配が先に立ちます。でも、公的医療保険には高額療養費制度があり、1か月の医療費の自己負担には上限が設けられています。上限額は年齢と所得で決まり、それを超えた分は負担しなくてよい仕組みです。
しかも今は、手続きの多くが前倒しで済みます。

親がマイナ保険証を使っていれば、対応する病院の受付で「限度額情報の提供」に同意するだけで、窓口の支払いが最初から上限までになります。事前の申請はいりません。マイナ保険証がない場合は、加入している健康保険(国民健康保険なら市区町村、会社の保険なら健保組合など)に「限度額適用認定証」を申請します。なお70歳以上の方は、認定証がなくても自動的に上限が適用される場合が多くなっています(所得区分によっては手続きが必要です)。
間に合わなくても大丈夫です。いったん支払って、後から高額療養費を申請すれば、上限を超えた分は払い戻されます。
注意点がひとつ。差額ベッド代(個室代)や食事代、パジャマなどの日用品は高額療養費の対象外です。個室を勧められたときは、本人の希望かどうか、費用がいくらかを確認してから決めてください。
身元保証人がいなくても、入院は断られない
入院手続きで家族を悩ませるのが、身元保証人の欄です。子が遠方に住んでいる、頼める親族がいない。ここで知っておいてほしい事実があります。
厚生労働省は2018年の通知で、入院が必要であるにもかかわらず、身元保証人等がいないことのみを理由に入院を拒否することは、医師法19条1項に抵触すると明確に示しています。つまり、保証人が見つからないからといって、入院をあきらめる必要はありません。
保証人を用意できない場合は、率直に病院へ相談してください。入院保証金を預ける、クレジットカードを登録するなど、病院ごとに代わりの方法が用意されていることがあります。院内の医療ソーシャルワーカー(相談室)は、まさにこうした相談のための専門職です。
民間の身元保証サービスもありますが、料金体系やサービス範囲が事業者によって大きく異なります。契約を急がず、内容と費用を確認し、迷う場合は地域包括支援センターや消費生活センターに相談してから決めてください。
入院中に、家族がやっておきたいこと
入院そのものの手続きが落ち着いたら、並行して整えておきたいことがあります。
- 民間の医療保険を確認する。親がどの保険会社と契約しているかが分かれば、入院給付金の請求ができます。分からない場合の調べ方は親の保険、どこに入っているか知ってる?に書きました
- 誰の口座から払うかを決めておく。医療費は原則、本人の財産から出すのが後々もめないこつです。本人の口座が使えない状態なら、認知症と預金の記事で書いた「本人のための支払い」の相談を銀行にしてみてください
- 退院後の生活を早めに考え始める。退院してすぐ元の生活に戻れるとは限りません。介護が必要になりそうなら、入院中から地域包括支援センターへの相談を始めてください。要介護認定は申請から原則30日かかるので、退院してから動くと間に合わないことがあります
誰も住まない実家がしばらく続くなら、空き家の管理も頭の隅に置いておいてください。
わが家の場合
父が最初に入院したとき、母は病院からの電話を受けて、まず銀行に走りました。いくら要るか分からないから、とりあえず下ろしておこう、と。
高額療養費制度のことは、退院後の精算のときに病院の窓口で教わりました。「限度額の手続きをしておけば、こんなに立て替えなくてよかったんですよ」と。母はしばらく、その紙を眺めていました。
知らなかっただけで、損をしたわけではありません。払い戻しは受けられました。でも、あの日の母の慌てぶりを思い出すと、「上限がある」と知っているだけで、入院の受け止め方はまるで違ったはずだと思います。
今日やることは、これだけ
- 親がマイナ保険証を使っているか(登録しているか)を確認する
- 親の医療保険の保険会社名を聞いておく
- 「入院したら誰の口座から払うか」を家族で一言だけ話しておく
