親を見送った後、銀行、証券会社、法務局、年金事務所と、行く先々で「戸籍一式を出してください」と言われます。原本は返してもらえますが、返却を待ってから次の窓口へ、という往復が何週間も続きます。法定相続情報一覧図は、その往復を減らすために法務局が用意した仕組みです。費用はかかりません。
結論。法務局で無料、戸籍の束の代わりに使える1枚です
正式には「法定相続情報証明制度」といいます。平成29年5月に作られました。
仕組みはこうです。相続人が、亡くなった方と相続人の関係を一覧にした図を作り、戸籍と除籍の謄本の束と一緒に登記所(法務局)に出します。登記官がその図の内容を確認し、認証文を付けた「写し」を無料で交付してくれます。以降の手続きでは、戸籍の束の代わりにこの写しを出せばよくなります。
使える手続きは、相続登記の申請、亡くなった方名義の預金の払戻し、相続税の申告、それに年金等の手続きなど多岐にわたります。年金については、令和2年10月26日から、遺族年金・未支給年金・死亡一時金などの請求で身分関係を証する書面として使えるようになりました。2026年2月に始まった所有不動産記録証明書の請求でも、相続関係を証する情報として使えます。
ただし法務局自身が「利用できるか分からない場合は、提出先の機関にお問い合わせください」と案内しています。出す前に一本電話を入れるのが確実です。
楽になるのは「出し直し」。戸籍を集める手間は変わりません
ここは誤解しやすいところなので、先に書いておきます。
この制度を使っても、亡くなった方の出生から亡くなるまでの戸籍と除籍を集める作業そのものは必要です。それを登記所に出して確認してもらう仕組みだからです。最初の一山は、制度を使っても使わなくても同じだけ登らなければなりません。
変わるのは2回目以降です。

戸籍を集めるところは、以前の記事で書いた広域交付の制度を使うと負担が軽くなります。最寄りの市区町村の窓口でまとめて請求できる制度です。先にそちらを済ませてから、この一覧図に進む順番が現実的です。
申出は郵送でもできます。登記所は4つから選べます
申出先は、次の4つのいずれかを管轄する登記所から選べます。
- 亡くなった方の本籍地(死亡時の本籍)
- 亡くなった方の最後の住所地
- 申出をする人の住所地
- 亡くなった方名義の不動産の所在地
遠方の実家の相続でも、自分の住所地の登記所を選べる、ということです。しかも窓口に行かずに郵送で申出ができます。郵送で写しを受け取りたい場合は、申出書にその旨を書いて、返信用の封筒と切手を同封します。窓口で受け取る場合は、申出書に書いた住所氏名と同じものが載った運転免許証やマイナンバーカードなどを持参します。
一覧図は自分で作ります。法務局が、配偶者と子の場合、子のみの場合、配偶者と兄弟姉妹の場合、代襲相続がある場合など、パターン別の様式と記載例をエクセル形式で公開しています。申出書の様式も同じページにあります。
作るときに迷いやすい選択が3つあります。
1つ目は続柄の書き方です。戸籍どおりに「長男」「長女」と書くほかに、申出人の選択で「子」とまとめて書くこともできます。ただし「子」と書くと、相続税の申告など、利用できない手続きが出てきます。税の申告に使う可能性があるなら、戸籍どおりに書いておくほうが安全です。
2つ目は相続人の住所です。書くかどうかは任意ですが、書いておくと相続登記などで住民票の写しの提出が不要になることがあります。一方で、写しの交付を受けた後に住所が変わっても、それを理由に作り直すことはできません。
3つ目は、誰を申出人にするかです。写しが足りなくなったときの再交付を受けられるのは、最初の申出書に申出人として名前を書いた人だけです。他の相続人は再交付を受けられません。手続きの窓口役になる人を申出人にしておく、という決め方になります。保管期間は5年間(申出日の翌年から起算)で、その間は再交付を受けられます。
この図に載るのは「戸籍どおりの相続人」だけです
登記官が確認するのは、戸籍と除籍の記載から導かれる相続人が民法のとおりかどうかです。その民法の順番を整理しておきます。
- 配偶者は、常に相続人になります(民法890条)
- 第1順位は子です。子が先に亡くなっていれば、その子(孫)が代わって相続人になります(民法887条)
- 子がいない場合、第2順位は直系尊属です。親等の近い人が先になります(民法889条)
- 直系尊属もいない場合、第3順位は兄弟姉妹です。兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥姪が代わりますが、その先までは代わりません(民法889条)
ここから、実務上とても大事な性質が出てきます。
この制度は戸籍の記載にもとづく法定相続人を明らかにするものなので、相続放棄や遺産分割協議の結果は反映されません。相続放棄をして実際には相続人にならない人がいても、その人の氏名は一覧図に記載されます。逆に、推定相続人から廃除された人は、相続権がはく奪されているため記載されません。
つまりこの1枚は「誰が相続人か」を示す紙であって、「誰が何を相続するか」を示す紙ではありません。放棄や遺産分割を伴う手続きでは、一覧図のほかに書類を求められることがあります。提出先に、一覧図以外で必要な書類を先に確認しておくよう法務局も案内しています。
もう2つ、知っておくとよい制限があります。亡くなった方や相続人が日本国籍を有しないなど、戸籍と除籍の謄抄本を提出できない場合は、この制度自体を利用できません。また令和6年4月1日から、不動産登記の申請書に「法定相続情報番号」を書けば写しの添付を省略できるようになりましたが、この番号が使えるのは不動産登記の手続きだけです。銀行や年金の窓口では使えません。
相続人の範囲に迷いがある場合や、相続登記を自分で進めるか決めかねている場合は、司法書士や管轄の法務局に相談してください。一覧図の作成自体を、親族のほか弁護士・司法書士・税理士などに委任することもできます。
わが家の場合
編集部の一人は、数年前に父を見送りました。当時はこの制度を知らず、戸籍の束を抱えて銀行に行き、返してもらってから次の窓口へ、という進め方をしていました。原本が1組しかないので、同時に進められないのです。郵送でやり取りした先もあり、全部終わるのに2か月近くかかりました。
後で知って悔しかったのは、費用がかからないことでした。手間を考えて有料のサービスを探していたのに、無料の制度が先にあったわけです。母のときは、戸籍を集めた流れでそのまま一覧図まで作るつもりでいます。
今日やることは、これだけ
- 法務局のサイトで、自分の家族構成に近い一覧図の記載例を1つ見てみる
- 提出先になりそうな銀行・証券会社に、一覧図の写しが使えるか電話で聞いてみる
- 手続きの窓口役を誰にするか、兄弟姉妹と話しておく(その人が申出人になります)
出典
- 法務局「法定相続情報証明制度について」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html
- 法務局「法定相続情報証明制度の具体的な手続について」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000014.html
- 法務局「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000015.html
- 法務局「法定相続情報証明制度の利用範囲の拡大について」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000018.html
- 法務局「法定相続情報番号の提供による相続登記等における法定相続情報一覧図の写しの添付省略について」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_00025.html
- e-Gov法令検索「民法」(887条・889条・890条) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
