親のこと、実家のこと。いつかは兄弟姉妹で話さなければいけないと分かっていても、切り出せないまま時間が過ぎていく。仲が悪いわけではないのに、この話題だけは避けてしまう。この記事では、兄弟姉妹の話し合いがこじれる本当の原因と、こじらせないための進め方を整理します。

結論:もめる原因はお金の額ではなく、情報と負担の「偏り」
「うちは財産が少ないから揉めない」。そう思っている家ほど、実は油断できません。令和6年の司法統計では、家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件のうち、およそ4分の3が遺産額5,000万円以下でした。争いの多くは、資産家ではなくごく普通の家庭で起きています。
なぜか。原因がお金の額ではないからです。こじれる家に共通するのは、次の2つの偏りです。
- 情報の偏り。実家の資産や親の意向を、近くに住む1人だけが知っている。他の兄弟は「聞かされていない」と感じる
- 負担の偏り。介護や実家の管理を1人が引き受けていて、「私ばかり」という気持ちが積もっている
金額の多寡ではなく、「不公平だ」という感覚が火種になります。逆に言えば、偏りを小さくしておけば、話し合いはずっと穏やかになります。
進め方は4つの手順で

1つ目は、情報を全員で揃えること。実家の名義はどうなっているか、親はどうしたいと言っているか。誰かだけが知っている状態をなくすことが、不信の芽を摘むいちばんの方法です。名義の確認は相続登記の記事で書いた登記簿の取得から始められます。
2つ目は、役割を分けること。ここで大事なのは、平等ではなく納得です。近くに住む人が実家の見回りをするなら、遠方の人は調べものや手続きの書類集めを引き受ける。同じ作業を等分するのではなく、事情に合わせて別の役割を持つ。実家の管理のような具体的な作業があると、分担は決めやすくなります。
なお、介護で仕事の調整が必要になったときは、兄弟それぞれの勤め先の制度も共有しておくと分担を考えやすくなります(介護で仕事を辞める前に。介護休業・介護休暇・給付金の使い方)。
3つ目は、決めることと、まだ決めないことを分けること。実家を売るか残すかまで一度に決めようとすると、必ず止まります。「今日は現状を共有するだけ」と最初に宣言しておくと、話が続きます。
4つ目は、決まったことを記録すること。口約束は、悪意がなくても記憶違いを生みます。兄弟のグループLINEに「今日決まったこと」を1行流しておく。それだけで、後の「言った言わない」がなくなります。
切り出し方と、踏まないほうがいい地雷
切り出すきっかけは、親の入院や帰省など自然な機会がいちばんです。「実家どうする?」と結論から入るのではなく、「お母さんの保険とか、把握してる?」のように情報の確認から入ると、責め合いになりません。切り出し方の基本は親の終活、どう切り出す?と同じです。
避けたほうがいいことも書いておきます。
- 犯人探しをしない。「なんで今まで放っておいたの」は、誰も得をしません。今日から揃えればいい、で前を向く
- 最初の話し合いに配偶者を入れない。それぞれの配偶者の意見が入ると、調整する人数が倍になります。まず兄弟姉妹だけで方向を揃えるほうが早く進みます
- 親抜きで決めきらない。実家も財産も親のものです。兄弟で方向を揃えたら、親の気持ちを聞く段階に戻るのが筋です
それでも折り合えないときは、抱え込まないでください。相続をめぐる対立には、家庭裁判所の調停や、弁護士への相談という正式な道があります。第三者が入るだけで話せるようになる家族は少なくありません。
わが家の場合
私と妹も、実家の話は長いこと避けてきました。きっかけになったのは、お墓の話です。改葬先の記事にも書きましたが、妹の「合祀は嫌」という一言で、初めてお互いの考えが違うと知りました。
それからわが家は、ゆるい分担に落ち着いています。調べるのは私、母の気持ちを聞くのは妹。私が集めた情報を妹に流し、妹が母とのお茶の時間に少しずつ確かめる。決まったことは家族のLINEに残す。それだけの仕組みですが、「私ばかり」と思う場面は減りました。
兄弟姉妹は、同じ家で育っても別の人間です。考えが違うのは当然で、違いが見えることは失敗ではなく前進です。妹の反対がなければ、私は母の遺骨の行き先を、たぶん費用だけで決めていました。
今日やることは、これだけ
- 兄弟姉妹のグループLINEを作る(なければ、それが第一歩)
- 「お母さんの保険とか把握してる?」と情報の確認から振ってみる
- 自分が知っていて、兄弟が知らないことを1つ共有する
